学芸員のひとりごと (第13回・平成23年1月26日)
歴史博物館講座では平成17年から「大野の神様を知ろう!」というテーマで、
大野市内の神社、そこに祀られている祭神について取り上げていますが、
今、世間で最も注目を浴びているのは、「トイレの神様」ではないでしょうか?
日本神道の中では、
「トイレに女神様がいる」「トイレをキレイにするとキレイな女性にしてくれる」
といった信仰はありませんが、
民間ではかなり広く、また、古くから言い伝えられてきたようです。( → 後述の「※紫姑神」を参照)
日本神話においてトイレに関わる女神というと、
波邇夜須毘賣(ハニヤスビメ)神(日本書紀では「埴山姫/埴山媛(ハニヤマビメ)」) が挙げられます。
この女神は、イザナミ神が火の神を生んだことによって火傷を負い、
苦しんだ病床で垂れ流した大便から生まれた、とされています。
この女神は、大野市の蕨生(ワラビョウ)地区の埴安姫神社(ハニヤスヒメ‐ジンジャ)に祀られています。
なぜ蕨生地区では、大便から生まれた神様を祀ることとなったのでしょうか?
平成19年の博物館講座で考察した内容を、ここで取り上げたいと思います。
先日、市内の小学校で校区内の神社について話をした際に、生徒達に聞いてみました。
「もしも、みんなでお金を出し合って、神社を一社建てるなら・・・
1.カレンダーの神様(月読神)
2.勉強の神様(菅原道真)
どちらにする?」
全員が、「勉強の神様」を選びました。
このように、多神教である日本神道の場合、多くの神の中から一柱を選んで地区で祀る際には、
なにかしらの理由があります。
(極端な例ですが、エジプト神話にタウエレトというカバの女神がいますが、
日本では、自然発生的には絶対に祀られることはありません)
日本書紀ではハニヤスビメ神を「土の神」と紹介しています。
土が大便と通じた姿であること、また、肥料として使われていたことから、
あのような誕生神話になったと考えられます。
そして古事記によると、ハニヤスビメ神の誕生と同時に、
小便から「ミズハノメ神」という水の神が生まれています。
その後、ワクムスビ神(穀物神)が生まれ、さらにトヨウケビメ神(食物神)と続きます。
このように、ハニヤスビメ神には農耕神としての信仰があります。
また、「土の神」といっても、普通の土の神ではありません。
「ハニヤス」は「埴粘(ハニネヤス・祭具の土器を作る粘土)」を語源としているようです。(『古事記伝』等)
日本書紀には、神武天皇は大和平定の際に天香具山の社の中の土を持ち帰り祭具を作り、勝利を得た、
と書かれています。
このように、神聖な土には特別な呪力がこもると考えられていました。
蕨生地区には古い塚が多く存在し、
塚と塚の間のぬかるみには良質な粘土が採れたようです。
そして隣接する塚原地区では須恵器を焼いた窯址及び須恵器の出土があったことが、
当館館長により報告されています。(『奥越史料 第9号』「大野市塚原地区の須恵器窯址と出土品について」)
昭和10年代まで瓦作りが行われていた蕨生地区では、
「農耕」よりも「窯業」の成功を祈って、ハニヤスビメ神を祀っていたと考えることができます。
このように、神社や祀られている祭神を考察すると、その地区の歴史が見えてくることがあります。
※紫姑神(シコシン)
「トイレの女神」のモデルは、道教の「紫姑神」とする説があります。
元々は山東省に実在した何媚(カビ)という女性のことで、
後に山西省の寿陽県の知事・李景の第二婦人となりましたが、
正妻・曹姑(ソウコ)の妬みにより、便所掃除や豚小屋掃除をさせられていました。
そして正月15日にトイレで殺害されました(一説には自殺)。
天の神はこれを哀れみ、曹氏を罰すると共に何媚(紫姑)をトイレの女神とした、というものです。
(『異苑』(中国六朝時代に編さんされた志怪書)より)
ただしこれも、「キレイにしてくれる」という信仰はもっていません。
昔は感染症の発生源となりやすかったトイレ周りに対して、
清潔を保つために生まれた俗信なのかもしれません。
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