テタヌラ類に属する獣脚類恐竜の歯化石
平成21(2009)年に大野市下山の手取層群伊月層(約1億2700万年前:白亜紀前期)から発見された獣脚類恐竜の歯化石標本(以下、下山産標本)について、東京農工大学科学博物館の上田裕尋特任助教を中心とした研究グループが、最新のデータを基に形態計測及び分岐分析による研究を進めたところ、本標本が「テタヌラ類」のものであるという同定結果に至りました。この研究成果は論文にまとめられ、日本古生物学会発行の査読付き国際学術雑誌であるPaleontological Research(パレオントロジカル・リサーチ)誌に受理・出版されました。
下山産標本の発見場所。右の地図中のグレーは手取層群の分布を示す。
発見された化石
外側歯
- 歯冠高 約28ミリメートル、歯冠底幅 約8ミリメートル、歯冠底長 約14ミリメートル。
下山産標本の写真(OMFJ V-1 大野市教育委員会所蔵)
同定結果・根拠
- 歯冠高が大きく、ブレード状の形をしていることから獣脚類恐竜の歯であると考えられます。
- 遠位及び近位の鋸歯がほぼ同じ平面上に配列していることなどから、外側歯(右側の上顎歯または左側後方の歯骨歯)であると同定されます。
- 91個の歯の形質を用いた分岐分析および6個の計測値を用いた形態計測的解析の結果を総合的に検討した結果、下山産標本はティラノサウルス上科、アロサウルス上科、またはピアトニツキーサウルスの近縁種である可能性が高いことが示されました。これらが含まれる分類群は「テタヌラ類」と呼ばれています。
テタヌラ類について
テタヌラ類は、ケラトサウルス類よりも現生鳥類であるスズメに近いすべての種を含む分類群として定義される分類群で、ティラノサウルス上科やアロサウルス上科などの中生代の獣脚類恐竜に加えて、現生鳥類までを含む、大きな分類群です。
研究結果と学術上の意義
メガラプトル類に属する可能性
- 下山産標本は、歯の特徴に基づく分岐分析の結果を重視した場合、アロサウルス上科またはティラノサウルス上科に属することが示唆されます。
- 下山産標本は、「メガラプトル類」という分類群に属する可能性もあり、その場合はこれまで知られている中で世界最古のメガラプトル類化石ということになります。メガラプトル類は、全身の詳細な形態的特徴や系統学的位置が未だに不明な獣脚類恐竜の系統群で、アロサウルス上科、ティラノサウルス上科のどちらに属するか、 まだ定かではありません。近隣の勝山市の手取層群北谷層(約1億2000万年前:白亜紀前期)からメガラプトル類のフクイラプトルが産出していることからも、大野市と勝山市での発掘調査を進めていくことで、このメガラプトル類恐竜の初期進化について解明する手がかりを得ることができる可能性があります。
約1億2700万年前の福井県にいた獣脚類恐竜たち
- 下山産標本が産出した手取層群伊月層および周辺地域からこれまでに産出した獣脚類恐竜化石と合わせて検討すると、 白亜紀前期の福井県周辺では2種類以上の中型獣脚類恐竜が共存していた可能性があります。
獣脚類恐竜の系統関係
化石の研究論文
タイトル
Morphometric and Cladistic Analyses of a Theropod Tooth from the Itsuki Formation of the Tetori Group in the Kuzuryu District, Ono City, Fukui Prefecture, Japan
[和訳:福井県大野市九頭竜地域の手取層群伊月層より産出した獣脚類の歯の形態計測的解析及び分岐分析]
著者
上田裕尋 (東京農工大学科学博物館)
酒井佑輔 (大野市教育委員会)
真鍋 真 (国立科学博物館)
對比地孝亘 (国立科学博物館)
伊左治鎭司 (千葉県立中央博物館)
大倉正敏
雑誌
日本古生物学会英文誌 Paleontological Research(パレオントロジカル・リサーチ)
論文出版日
令和4(2022)年10月1日にオンライン出版、令和5(2023)年1月に冊子版を発行
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